金属のひずみ  #4186
投稿者:  深ちゃん (99/08/25 12:36)

ラッパにしても何にしても、加工された金属は必ずひずみを持ちます。イメージでいえば、ばねを無理矢理縮ませてるような感じですかね(ここまで大きいレベルではないですが)。しかし、自然界の法則で、エネルギーは、エネルギーレベルの高いほうから低いほうに向かって移動する、というものがあります。ひずんでいる金属は、ひずみを元に戻そうという反作用によって、エネルギーを持つ事になります。このエネルギーが抜ける事を、俗にいう「ひずみが抜ける」という事になるわけです。これは、年月が過ぎるとともに進行していきます。
もう一つ、物質の特性として、「環境への適応」があります。金属加工時に、材質の金属の分子配列が微妙にずれ、整然と並ばなくなってしまいます。しかし、ラッパのように、特定の音すなわち特定周波数帯の振動(これもある種のエネルギーです)を長い事与えつづけると、これを吸収・放射しやすいように金属分子が整列していきます。まったく加工していない金属でも、この現象は起ります。要するに、材料が楽なほうへと逃げるわけです(笑)。ちなみに、これが度を越えて起った物が金属疲労です。ばねが折れたりするのは、こういうことです。これが起ったラッパは、新品のラッパよりなりやすくなっている、という事になるのです。長い事吹いていると音が抜けてくる、というのはこういった物理的変化がおきた事による物です。今の科学技術でも、そう簡単に人工的に起こせる物ではありません。
金属の組成については、今の技術で十分コピーを作れます。真鍮は銅と亜鉛の混合物ですが、古い時代には精練技術が発達しておらず、ニッケルや鉛といった金属が不純物として、つまり添加物としてみとめられないほどのオーダーで入っていた、という事を聞いた事があります。ニッケルも鉛も、体内に吸収されると人体に有害です。また、加工しやすくするために、別の金属を添加する事がありますが、ラッパではどうなのか、音に対する影響などはわかりません。パイパーズの200号あたりに、金属にかんする特集があったと思います。また、10年ほど前、特番で、ヤマハがウィーン・フィルの楽器を完成させるまでの経過をたどった番組が静岡で放送され、そこにも金属の問題が取り上げられていました。この時ヤマハは、ヘッケルのロータリーの主管を輪切りにし、そのサンプルを金属分析していました。

自分の専門分野でしたので、難解な事を長々と書いてしまいすいませんでした。


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