BとHの話  #23062
投稿者: やちまう (2004/06/11 03:22)

一応、それなりに整理して書いているつもりですが、
文才の無さゆえ、分かりにくい文章になることをお許しください。

# ちなみに、ここの段落の様に「#」で始まる行と、「/* 〜 */」で囲まれている部分は
# 私の勝手な解釈が入っているコメントですので、鬱陶しかったら読み飛ばして下さい。


§音名に関して

まずは、オクターヴという概念が体系化されていなかった時代 /* まで遡らなければなりません */。

所謂「ボエティウス(※1)の記譜法」だと…
A B C D E F G H I K L M N O P(この時代はまだ「J」に相当する文字がなかった)の
15文字が用いられていました。

# 無いのが愛(I)じゃなくて良かったです…(^_^;)

  ※1
  Anicius Boethius (480?〜524): 哲学者[伊]

# この時代の音楽の中心は声楽であり、
# 2オクターブを定義しておけば充分だったのでしょう。

のちに、音名はグイード・ダレッツォ(※2)によって体系化され、
文字の音名に関しては、独音名、英音名に受け継がれてゆくことになりました。

  ※2
  Guido d'Arezzo (992〜1050): 理論・教育家[伊]

その一方、同じくダレッツォがソルフェージュを目的として、
「聖ヨハネ讃歌(※3)」のフレーズ開始音を音階の概念とした
「ユト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」からなるヘクサコード(※4)が、
仏音名・伊音名の由来となりました。

  ※3
  聖ヨハネ讃歌の楽譜はこちら↓
  http://www.din.or.jp/~ymch/trp/follow/BH/Johannes.gif

  ※4
  ヘクサコード: ソルフェージュの目的で、/* 当時ポピュラーであった(?) */
  聖ヨハネ讃歌の各フレーズの開始音6つの音を用いて音列を定義した階名唱法の元祖。
  外側が長6度で中心に短2度(半音)を含む音階。


§BとH

13世紀中頃になると、その当時の声楽で実用的な音域内でのC・F・Gから始まる
3種類のヘクサコードを作ることが提案されます。

ヘクサコードの音程間隔はあくまでも「ドレミファソラ(全全半全全)」ですので、
Bの音を2つ用意する必要がありました。

http://www.din.or.jp/~ymch/trp/follow/BH/Hexachord.gif

Bナチュラルにあたる音がbドゥルム (堅いB・四角い形のbの記号) 、
Bフラットにあたる音がbモレ (柔らかいB・普通のb文字)と定義されました。

16世紀のドイツの印刷業者がbドゥルム (堅いB・四角い形のbの記号)の活字を作らずに、
形がそれに最もよく似た既存の活字であるhを使ったのだそうです。(※5)

こうしてドイツではフラットの音が「B」、ナチュラルの音が「H」となりました。

  ※5
  東川清一《読譜法の今昔 シャープとフラットのはなし》音楽之友社

/*
ちなみにフラット(♭)はbモレの記号から、
そしてナチュラルとシャープはbドゥルムの記号から派生したらしいです。
*/

17世紀頃、教会旋法から派生した長調・短調の概念が確立されると
ヘクサコードの概念は廃れ、各地にはそれぞれの音名が残りました。

「符号化・記号化の為の概念」と「実践・普及の為の概念」の狭間、
そして、「印刷業者の怠慢」からHという音名が誕生しました。

ご参考になりましたでしょうか…。


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やちまう
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