re:初心者の指導について  #24107
投稿者: サイトウ (2004/10/16 12:06)

参考になるかどうか分りませんが、最近の私の経験から。
先日、中3になるわが娘にトランペットを教えました。まったくの初心者です。ただし、普段から親父がラッパを練習する姿を見ていますから、唇の形をまねて、マウスピースなど無しにかなり高音のバズィングが出来るようになっています。
まず、基本的な口の形を教えました。少し顎を落し気味にし、『あー』と声楽の発声のような喉から口の形をとらせ、そのままの状態で唇だけを閉じたアンブシャを私がして見せ、真似させました。そこに指2本をマウスピース代わりに当てて、私のバズィングを真似てできるだけ高い音を出すよう求めました。時々5線譜第1線のF近辺の高い音が出るようになったことを見はからって、今度は比較的大きなマウスピース(1ハーフC相当)を付けたTpを吹かせてみました。一緒にラッパを吹きながら上のFが出せないかと、『いろいろ自分で工夫してみろ』と言いながら、指2本のバズィングとの往復をしながらやっていると、Fが2,3秒伸ばせるようになりました。半時間もやっているうちにDはロングトーンできるようになりました。でもFは吹きはじめの1,2秒だけしか続かず、あとは息がコントロールできないせいか、D、B♭と倍音を下がるのみ。音質はFやDは一人前のラッパの音、そこから下は振動成分の切り替えが出来ないので詰まったような音に。その過程で私が驚いたのは吹き始めの一瞬ですが、ハイB♭やA♭が出てしまうのです。ファルセット(発声で言う裏声)なのですね。しかもほとんどノンプレスで無駄な力は入っていません。恐らく娘は私が30年目に始めて経験したファルセットを経験してしまったと言うことになるのでしょう。高い音を高いと意識する前だからこそ出来たことなんだろうと思います。

私も、中学校でラッパをはじめて吹いたときにはマウスピースを鳴らすことから入りました。初心者がマウスピースを鳴らす場合、ある程度プレスして振動の起こりやすい唇の内側部分を使って音を出そうとします。そのほうが鳴らしやすいのですから当然です。私もそうでした。唇の柔らかい部分を振動させることに何の疑いも無く、あたかもこれが出来ないとラッパは発音できないかのように、最初からすり込まれてしまったのですね。私には、これがそもそもの間違いの始まりだったろうと思っています。粘膜奏法(粘膜吹き)は、唇だけの形に留まらず、口腔内の状態や喉の状態も拘束してしまいますから、響きの良い音を出す為の素地をまったく欠いたスタートをさせてしまうことになります。
初心者に教える場合、私は何よりも粘膜奏法にならない導入を心がけるべきだと思います。
そのためには第1に、マウスピースに頼らない唇だけのバズィングを教えてはいかがでしょう。しかもできるだけ高い音を目指すべきではないでしょうか。高い音をバズィングで鳴らすには、唇の内側を使った振動成分による発音ではなく、唇の比較的外側を使い上下の唇を薄く開いて鳴らすファルセット的(裏声的)な発音のほうが鳴りやすいはずですから、まずそのコツを体得させられないでしょうか。
第2に、自分で楽器を鳴らす前に、先生になる人がバズィング音にしろ楽器の音にしろ、実際の音を聞かせて、出すべき音のイメージを生徒自身の耳からつかませることではないでしょうか。私の娘に教えたときに強く感じたのは、バズィングにしろ楽器の音にしろ、日ごろ私がやっていることをそのまま再現しようとしていることでした。やはり、音のイメージ、アンブシャのイメージがあらかじめ有ると言う事は、かなり決定的なことなんだなと思いました。
いずれにしろ、初めて楽器を持って音を出す瞬間は、その人のラッパ人生にとってかなり重要な意味を持つはずですから、指導の理念をしっかり持ってなさるべきだと思いますがいかがでしょうか。